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戦場に響く鈴の音
第16章 意地
しかも、いつの間にやら、この新婚生活が無事に始まったのは進行役を務めた須賀の手柄という事になっている。
本当の状況を何も知らぬ家臣達は婚礼の儀が滞りなく進んだ現状に喜びを示す拍手を送る。
「黒崎様ぁ…。」
まだ覚悟の足りない須賀だけが悲鳴を上げる。
雪南の演説が終われば俺は主として家臣達に命を出す。
「今宵は無礼講だ。」
俺の言葉を待ってたかのように広間へは華やかな衣装を着た女達が入って来る。
天音湖の畔にある柑(こう)の街の遊女達だ。
燕の加濃や柊の来栖に比べれば遊郭としては、かなり規模は小さいが天音観光の温泉街となる柑の街では芸妓が多く、遊女もそれなりに取り揃えてる。
その遊女の中から一際、派手目な女が俺の方へと歩み寄る。
「神路…。」
俺の隣は自分の場所だと言わんばかりに鈴が俺に寄り添う。
「須賀に付けてやれ…。」
俺の遊女遊びを許さない鈴だが、須賀が主役の宴なのだから、その程度は認めさせなければならない。
鈴に睨まれた遊女はクスクスと笑いながらも須賀の隣に座り直し酒の酌をする。
「俺の酒は?」
鈴に盃を見せれば
「飲み過ぎは認めないからな。」
と俺の酒に制限を掛けやがる。
「婚礼初日の宴だぞ?」
「これは鈴の婚礼じゃない。」
「俺の婚礼は鈴の婚礼だ。」
拗ねて尖らせた唇を指先で撫でてみる。
悔しげに俺を睨むくせに艶麗な仔猫は淫らに紅い舌を使い俺の指先を舐め上げる。
「鈴、近う…。」
いつものように鈴を膝の上へと抱え上げる。
一部の家臣は新婚生活を始めたばかりの俺が小姓の鈴を必要以上に愛護する様に驚きを見せるが、こんな事は見慣れてる須賀や雪南が顔色一つ変えないからと見て見ぬふりを決め込む。