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戦場に響く鈴の音
第2章 登城
「神路殿と…。」
理解の早い直愛が呟いた。
「好きにしろ。黒崎の屋敷は黒炎城の西側だ。」
城下町である燕…。
中央にある黒炎城を囲うように大城主の配下となる武家屋敷があちらこちらへと張り巡り、更に外堀から向こう側に町が広がる大都市になる。
神や冴より流れて来る商人との交流で栄える貿易街である燕は手に入らぬ物は無いとまで言われている。
この遠征に参加した下級の一般兵は黒炎が用意する報酬を受け取り次第、燕より立ち去り自分の出身故郷へと出立する。
武功などを上げた者だけが黒炎の敷地に留まり大城主大河の祝宴に参加するのが習わしだが、武功の無い遠征だと身内の家臣だけが呼ばれる祝宴となる。
武功の無い直愛が御館様に目通りが叶う可能性があるとすれば俺と行動を共にするのが近道。
その為だけの黒崎への招待に応じる直愛と共に俺は黒崎の屋敷へと向かう。
俺自身、黒崎の屋敷にはあまり馴染みが無い。
御館様の小姓だった俺は生活の8割以上を黒炎の本丸で過ごす事が多かった。
黒崎の屋敷に改めて居を構え直したのは元服してからの事であり、すぐに出陣となった為、久しぶりという感覚すら自分の屋敷に持っていない。
「神路の家?」
黒崎の屋敷に向かうと聞いた馬上の鈴が俺の方へ顔を向ける。
「義父の屋敷だ。俺はまだ屋敷を持たぬ未熟な身だと教えただろ。」
「神路のおっ父ってどんな人だ?」
「欲の無い人だ。」
先代の大城主より老中として仕えて来た義父。
欲は無く、後5年もすれば引退して領地で骨を埋めるだけを望む人。
早くに妻を亡くし子が持てぬまま御館様を息子同然に可愛がったと聞いてる。
俺に対しては孫に近い感覚で何も言わずに見守るだけの人だった。