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戦場に響く鈴の音
第2章 登城



見知らぬ街で怯えた表情を見せる鈴の頭を撫でて怯える必要は無いのだと宥める。


「義父は鈴にも良くしてくれる。」


義父は口数こそは少ないが人に不愉快な事をする人では決してない。

御館様より俺の保護を任せられた時にも俺の境遇に涙を見せる事はあったが俺を忌み嫌う態度を見せる事は一度足りとも無かった。

鈴の事もそのまま受け入れる事が出来る器の広い人だからこそ今日まで大河の筆頭老中として仕えてる。

黒崎の屋敷に入り、馬を降りれば馬番がやって来て俺や直愛の愛馬を引き受ける。

玄関では黒崎で雇う女中が湯の入った桶を持ち俺達の汚れた足を洗い流す。

鈴はその女中達の手から逃げ出そうと踠き恨めしげに俺を見る。


「鈴、汚れた足を洗ってから上がるのが屋敷に対する礼儀だぞ。」

「汚れてない。」

「馬に乗ってても汚れる。大人しく洗って貰え。」


鈴の躾に直愛が穏やかな笑みを浮かべる。


「親子というよりもご兄弟のように見えます。」


直愛の眼には俺と鈴がそう見えるらしい。

鈴はただ、ぼんやりとした表情で俺だけを見る。

この、ひと月余りの鈴は俺とは会話をするが俺以外の存在とは会話をしようとはしない。

雪南が何を鈴に言っても鈴は雪南の言葉など耳に入らぬかの振る舞いをし、雪南を何度も怒らせた。

その鈴をこの屋敷で1人にするには不安があるが今夜はそうも言ってられない。


「湯浴みを済ませて黒炎に向かう。」


遠征中は常に簡易甲冑のままなので手足くらいしか汚れを落とす事が出来ない。

登城するとなれば風呂で全身の汚れを落とし直垂(ひたたれ)に着替える必要がある。

お気楽な着流しが俺としては好みだが、御館様の御前に公式で上がる以上は正装での登城はいた仕方ないと諦める。


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