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戦場に響く鈴の音
第17章 自慰
何故か、彩里が居る離宮の方は面倒だと思うだけの俺の方の考えとは違った反応を示す。
渡り廊下の向こう側に居た彩里の警護兵は俺と雪南の姿を見るなり奥殿へと走り去り、昨日と同じ部屋の前まで廊下を抜ければ、昨日の老婆が廊下で正座した姿勢で俺に深々と頭を下げやがる。
「姫は奥でお待ちです。」
老婆はしおらしくそう告げると俺の為に部屋の戸を開く。
雪南だけが警戒し、刀に手を掛ける。
「雪南…、大丈夫だ。」
部屋に入るなり俺が切られるかもと神経を尖らせる雪南を諭す。
生憎、彩里が待つという部屋からは殺気を感じない。
幾ら軽装とはいえ、俺も刀は常に吊るしてる。
あの彩里の身体の肉付きからして、彩里が刀を握った経験などないとしか思えない。
何よりも首筋にチクチクとする緊張感を全く感じない。
あれを感じる時は危険な状況を本能的に感じてる時であり、油断は禁物だという合図のようなものだ。
その緊張感を感じない状況では、そこまで神経を尖らせる必要などない。
ふっと自分に笑いたくなる。
鈴と居る時に時折、感じる緊張感…。
あいつは平然として俺に殺気を向ける。
あれは、俺を失うくらいなら殺してやると無意識に放たれている鈴の嫉妬…。
あのゾクゾクとする緊張感に比べりゃ、離宮の異常な静寂など恐るるに足りぬ。
「控えてろ…。」
この館の主として命じれば、雪南と老婆が左右に別れて跪く。
開かれた表部屋を抜け奥部屋まで突き進む。
彩里が待つという奥部屋の戸を開き、中の確認をするなり俺の驚きが口をついて出る。
「ほお…。」
昨日とは打って変わっ出た笹川の演出…。
あれだけ辱められただけの女だったくせに、今日は俺を夫として出迎える準備を整えた彩里が貞淑な妻として俺を待ってやがった。