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戦場に響く鈴の音
第17章 自慰
俺が言い付けたように、部屋の真ん中には既に床が敷かれてる。
その足元で正座する彩里がゆっくりと頭を下げて俺にひれ伏す。
「お待ちしておりました。」
ハスキーな声は相変わらずだが、今朝の口調はかなり大人しいなと感じる。
彩里の出方を見ようと待ち構えている俺の方へと、流行りものの打掛を着た彩里がゆっくりと顔を上げる。
今日の彩里の着物は、鈍く金に光る打掛の裾を埋め尽くすように幾重もの花弁が刺繍されており、その裾を広げて座れば花弁の中で漢を待つ女が出来上がるという代物だ。
そんな安っぽい演出まで行い、俺を待っていたと言う彩里の心理を探ってみる。
「俺を待ってただと?」
昨日とは違い過ぎる彩里に問えば
「ええ、私は黒崎様の妻…、妻が夫を待つのは当たり前…。」
と冷ややかな笑顔で答えて来る。
「俺の妻だと?」
「その為に私は蘇へ来たのだと言ったのは黒崎様ですわ。」
「つまり、俺の子を産む覚悟が出来たと?」
俺の質問に彩里が眼を光らせる。
「その代わり…、笹川の…、弟の命の保証をして下さい。」
再び、彩里が頭を深く下げて俺に懇願する。
笹川の内乱はかなり切羽詰まった状況らしい。
天音から笹川の領地までは天音川の上流域となる山を越えるだけだから3日も掛からない。
蘇の検閲はあるものの、弟である孩里との連絡としての文のやり取りくらいは彩里に認められている。
もう1人の護衛兵が見当たらないところを見る限り、早馬を使い弟の状況だけは逐一、彩里が把握してるのだと思われる。
「俺が何もしなくても、弟は春まで無事だろ?」
わざと彩里を試すように焦らした駆け引きを持ち掛ける。
その瞬間、彩里の口の端がキッとキツく引き締まる。