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戦場に響く鈴の音
第18章 打掛
「鈴を柑へか?」
もう一度、確認するしかない。
「ええ、そろそろ雪が来ます。ここへ持って来た鈴の荷物は秋の物しかございません。鈴には風真より送られた祝い金もございます。鈴の冬越しの為の買い物を御館様の到着前に済ませるのが得策だと思われます。」
確かに鈴の物はギリギリしか持って来てない。
小姓だからという扱いで鈴は軽んじられている。
義父が来る前に鈴の身なりを整えたいと考える雪南の意見は最もだとは思うのだが…。
「神路、柑とはあの湖の向こう側に見えてる街の事か?多栄はあそこから来たと言った。鈴はあの街に行けるのか?神路も一緒に行くのか?」
焦れた鈴が俺に質問を捲し立てる。
そんな仔猫を抱き上げて、一つづつ仔猫の疑問に答えてやる。
「そう、湖の向こう側が柑だ。あそこへ船で渡る。義父を迎える準備をする為に買い物が必要だから、ついでに鈴の冬支度もしたいと雪南が言ってる。」
「神路は?」
俺の頬に手を添えて首を傾げた小さな仔猫が聞いて来る。
「俺は行けない。婚姻の儀の中で、夫婦は屋敷から出てはならない決まりになってる。」
「神路は行かないのか?なら、鈴も行かない。」
そう言うと鈴が俺の着物の袂に顔を埋めてしがみつく。
こうなる事がわかってて雪南は今日まで鈴の買い物を待っていた。
俺が彩里の元へ通う間は絶対に鈴は屋敷から動こうとはしない。
かと言って、冬越しの支度もせずに鈴を天音に置いておけば風邪を引かせてしまうのがオチとなる。
従って、雪南の為に俺が鈴を説得してやるしか他ならぬ。
「鈴、雪南と行け。俺は鈴の帰りを待つ。」
「嫌だ。」
「いつもは鈴が俺の帰りを待ってるだろ?今日は俺が鈴を待っててやると言ってる。」
説得をすればするほど、鈴は俺の着物に顔を深く埋め、細い首を横に振り続ける。