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戦場に響く鈴の音
第18章 打掛
その頭を撫でて口付けをしながら、俺は鈴を手放す。
「鈴は何の準備もせずに義父に心配を掛ける気か?それに義父を迎える準備を俺は鈴に任せたい。」
義父を迎える準備は本来ならば、妻である彩里の役目となるのだが蒲江が彩里の台所入りを拒否した以上、台所に入れる鈴の役目だと言い聞かせる。
「おっ父の為なのか?」
「義父に寒い思いをさせたり、退屈な思いをさせぬようにするのが鈴の大事な仕事だ。」
別に鈴がやらなくとも雪南が全てを仕切るのが黒崎家のやり方ではあるが、鈴にこの屋敷での役目をそれなりに与えてやるのも主として重要な仕事であり、それを理解している雪南は何も言わずに黙って俺と鈴の会話を聞いている。
「わかった…、なら鈴は雪南と行く。出来るだけ早く戻る。だから神路は大人しく待ってると約束して…。」
いつも俺が鈴に言う言葉を鈴が真似して言う。
「雪南に迷惑はかけるなよ。」
「わかってる。」
柑へ出掛ける準備をする鈴を見ながら雪南が笑う。
「夕刻前には戻るのに、まるで今生の別れの様な…。」
そう言って鈴を馬鹿にする。
「そう言うな。あれは俺から離れると神経質になる。」
「船は3隻ほど出します。余裕があるので黒崎様にも欲しい物があれば買って来ますよ。」
3隻の船…。
随分と大掛かりな買い物だと予想がつく。
「そんなに何を買う?」
と雪南に問えば
「離宮での炭や薪の消費がこちらの予想以上に激しいのですよ。紙の使い方も半端なく、菓子や茶もこちらの倍は使ってます故。」
と呆れた答えが返って来る。
「もう、炭や薪を使ってるのか?」
「天音の方が由よりも暖かいはずですが、由では今の時期から薪を使うのは当たり前だと言って引かないもので…。」
あの老婆とやり合った雪南がうんざりとした顔をする。