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戦場に響く鈴の音
第18章 打掛
浪費が激しい妻…。
自分の持ち物に無頓着な妾…。
どちらの女にも俺はため息が出る。
「行って来る…。」
ギリギリまで俺の手を握ったままの鈴がそう呟く。
「暇つぶしになりそうな本があれば買っておいてくれ。」
鈴の頬に口付けをして、俺の方から鈴の手を離してやる。
そうしなければ鈴はいつまでも俺から離れようとはしない。
鈴を屋敷に閉じ込めるだけの漢にはなりたくないと思う。
悲しげな瞳を伏せた鈴が俺に背を向けて屋敷から出て行く。
たかが買い物で確かに大袈裟だとは思うが、鈴が居ない間に彩里に俺が取られるかもと鈴は考えてる。
最近は、よく食べてよく眠る鈴だから、随分と健康的な顔付きにはなって来た。
とはいえ、僅かでも俺が姿を消せば鈴は頑なに周囲の人間を拒否し何かと困らせる迷惑な仔猫へと逆戻りしてしまう。
「困ったやつだ…。」
鈴に対しては苦笑いをするしかない。
どちらかと言えば笑えないのは彩里の方だ。
もしも彩里が産まず女だとしたら黒崎には最悪だと考える。
秀幸の正室は御館様の妹君…。
結婚して、もう7年にもなるが未だに宇喜多の世継ぎとなる嫡子は生まれてない。
黒炎で靱やかに流れる噂…。
産まず女である姫を見限った秀幸が近頃は他の愛護しか抱いておらず、そちらで嫡子が出来次第、姫君は大河へ帰されるかもしれないという下卑た噂話が耐えない。
秀幸は正当な宇喜多の子で、既に蘇の宰相である。
例え、大河の姫と子が成せぬとしても、それなりの家柄の娘に産ませた子を嫡子として宇喜多を存続する事は可能だ。
俺は違う。
黒崎としても中途半端にしか認められず、筆頭老中にも収まりきれていない以上、黒崎の嫡子を彩里に産ませるのが絶対条件のようになっている。