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戦場に響く鈴の音
第18章 打掛
訓練所なら、1人や2人はそれなりの剣の使い手が居る。
俺の暇つぶしなら、そういう連中の方が良いという話だ。
農民上がりで頭の方はからっきしだが、体力と運動神経だけはやたらと良い兵士が居る。
兵士を束ねる力は無くとも、そういう特別な兵士なら俺の暇つぶしには丁度良い。
「そうだな…、訓練所から何人か呼び寄せろ。だが今日は須賀に俺の相手をして貰う。」
「だから、私には無理ですよっ!」
黒崎に刃を向けるなど、あってはならぬ事として育てられて来た須賀は気持ちの段階で俺に負けてしまっている。
「練習だぞ?」
「黒崎様の腕力に勝てる武士なんか、蘇には居ないと言われてるくせに…。」
「あの万里なら、どうだったと思う?」
「そうですね。身体は黒崎様並に見えましたが、戦略的にははったりが多く実力までは測りかねます。」
そんな話をしてるうちに寺嶋が50人ほどの警護兵を連れて戻って来る。
戦に出れずにグダグダしてるのは俺の性に合わない。
「まとめてかかって来いやっ!」
50人の兵士に向かって叫べば兵士達が嬉々として刀を抜く。
出世を望む若い兵士が多い。
この訓練で主である俺の目に止まれば、屋敷警護で無く本物の戦場へ出て手柄を上げる事が出来ると誰もがいきり立つ。
50人に囲まれてるというのに俺の気は早り、心臓の鼓動の高鳴りに合わせて身体中が熱くなる。
例え訓練でも戦場に近い感覚を味わうのが好きだ。
戦場では生まれの身分など関係なく、勝った者だけがその戦場を治める事が許される。
そんな単純な世界でしか俺は生きられない漢だ。
片っ端から俺に挑んで来る刀を跳ね返しながら、ただ生き残りたいと刀を振るう。
我武者羅に刀を振り続ける俺の姿を須賀と寺嶋は呆れた表情で眺め続けるだけだった。