この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
戦場に響く鈴の音
第18章 打掛
パンッと手を打つ音が鳴り響く。
その音で50人の動きが一斉に止まる。
邪魔をするなっ!
そう叫ぶ前に天音湖から吹き上げる風が俺の頭を冷やしてくれる。
「訓練はそこまでです。黒崎様はそろそろ手加減なんか出来なくなってますよね。味方同士で殺し合うつもりですか?」
冷たい声にホッとする。
雪南が言う通りで熱くなり過ぎた。
全身が汗でずぶ濡れになっている。
息も上手く整わない。
ムキになる兵士達が多く、最後の方はかすり傷程度とはいえ兵士達を傷付けてしまった。
「帰って来んのが遅せえよ。」
自分の失敗を雪南に押し付けて誤魔化す。
「夕刻前には戻ると言ってありましたでしょ?それに須賀も寺嶋も居たというのに、何故、黒崎様を止めないのだ。」
俺に対する説教のとばっちりは、しっかりと須賀達へも飛ぶ。
「自分達に黒崎様を止めるなど無理ですよ。」
須賀も寺嶋も雪南が戻って来た事にホッとした表情をしている。
「鈴は?」
刀を雪南に預けて問う。
その刀の歯を確認する雪南がますます呆れた顔をする。
「たかが訓練に真剣を使うとか…。すっかり刃先が傷んでしまってる。この御屋敷には、なんの為に道場があるのやら…。」
屋敷の庭端には道場があり、木刀などが揃ってる。
「刀は雪南が研げ…。それよりも鈴は?」
答えようとしない雪南に焦れて苛立つ。
いつもなら、真っ先に鈴がここへ駆け寄って来るはずだ。
その鈴が来ない理由がわからず、落ち着かない気分にされる。
「鈴なら、黒崎様のお部屋ですよ。随分と買い物をしたから、多栄と片付けてる最中です。」
「部屋へ戻る。」
「先に湯浴みをされた方が…。」
「風呂は後で良い。」
鈴の無事を確認するのが先だと、振り回した兵士達を庭に残して勝手な主は館へ向かう。