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戦場に響く鈴の音
第18章 打掛
俺は鈴を待つと約束した。
残された側の気持ちを鈴は熟知してるというのに、何故、一番に俺の前に顔を出さぬ。
これは俺に対する嫌がらせかと、ついて来る雪南を睨めば、肩を竦めて呆れる顔を見せて来るだけだ。
廊下にバタバタと乱暴な足音だけが響く。
何事かと女中達がチラホラと部屋から顔を出すが、肝心の小姓は全く姿を見せぬままだ。
「鈴っ!」
結局、自分の部屋まで辿り着き、真っ先にその名を呼んでも俺の前に跪くのは俺の小姓ではなく警護の多栄…。
「鈴は?」
「鈴様なら、奥部屋に…。」
多栄の言葉に苛立つ。
俺の声は聞こえてるくせに…。
終わったはずの、かくれんぼの続きをさせられている。
「おいっ!」
いい加減にしろと寝室となる奥部屋の戸を乱暴に開く。
これで鈴が居なけりゃ、マジ切れしそうだと思うほど気が立つ自分を抑え切れない。
夕日が差し込む部屋が橙に染まってる。
今朝までは冷たく無機質な木の床だったはずなのに、今は柔らかく真っ白な毛皮が敷かれ、部屋の片隅には薪を焚べる為の小さな暖炉が設置されている。
部屋の変わりようはどうでもよいと、俺の部屋を変えた小姓に眼を向けてはみたものの、部屋よりも変わり果てた姿になった小姓に言葉が何も出て来ない。
組み紐で一つに束ねられていた髪が降ろされ、真っ直ぐに伸びた艶やかな髪が腰の辺りで揺れる。
「か…みじ…。」
僅かに振り向いた鈴が頬を紅く染めて俯く。
「えっと…、鈴…か?」
間抜けな事を聞いたと思う。
何故なら、俺がよく知る気まぐれな仔猫の姿はそこになく、どこかしらの姫だと名乗るに相応しい少女が自分の右腕を左手で抱くようにして立っている。