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戦場に響く鈴の音
第18章 打掛
撫子色をした打掛の裾を広げて俯いたまま佇む少女…。
派手な装飾などはなく、襟元に一輪の花菖蒲が描かれただけの古臭いデザインの打掛だというのに、艶やかな顔立ちの少女には、そのくらい控え目な着物の方が良く似合うと思う。
「その…、雪南がな…、神路のお古は…、もう鈴には着れないと言うのだ。」
小姓姿から姫姿へと変貌を遂げた本人が言い訳を口吟む。
「あー…、まぁ…、そうだよな…。」
10歳から雪南よりもデカくなっていた俺の着物など、俺よりも遥かに小さな鈴に着れるはずもなく、そもそも鈴は女子なのだから女子用の着物を着るのが当たり前の事だというのに俺も鈴もそんな些細な変化が怖いらしくお互いが狼狽えて眼を逸らしてしまう。
「だからな…、その…、やはり、この着物は変か?変なら鈴はいつもの着物を着ようと思う。」
落ち着かないのは鈴も同じだ。
姫、姫と言われて育って来た彩里のようには行かぬ。
「おいで…。」
いつものように手を広げて呼んでやる。
いつもならパタパタと走り、飛び付いて来る仔猫が引き摺る打掛の裾を邪魔だと睨みながらヨロヨロと俺の前まで歩み寄る。
────プッ…。
笑ってはいけないとわかってても込み上げる笑いに逆らえない。
クックッと堪えた笑いに肩を震わせる俺を、今にも泣きそうな表情をする鈴が怒る。
「神路っ!」
大きな瞳に涙まで浮かべて唇を尖らせる。
「悪い…。」
打掛の中に着た小袖の脇に手を差し入れて、いつも通りに小さな鈴を抱き上げてやっても鈴はフンッと顔を背けて怒りを治めようとはしない。
見た目だけは姫でも、中身は気まぐれな仔猫のままだと心の何処かで安堵する。