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戦場に響く鈴の音
第18章 打掛
「その着物…、可愛いぞ。義父が見たらきっと喜ぶ。」
鈴の膨らむ頬に口付けをして褒めてやる。
「神路は笑ったではないか…。」
「笑ったのは鈴が着物に慣れない姿を見せるからだ。」
「おっ父は…、本当に喜んでくれるか?」
「ああ、義父は鈴を娘として引き取るつもりで居た人だぞ。」
義父は鈴の幸せの為を願う人だ。
ただ、鈴を引き取り俺から引き離せば、鈴が傷付くとわかっていたから実行が出来なかっただけの事…。
そんな義父が鈴の姿を見て、決して馬鹿になどしはしない。
それでも鈴はまだ口を尖らせたまま俺を見る。
「神路は…、どうなのだ?」
「俺?」
「鈴はこの姿が落ち着かない。」
「確かに落ち着かないとは思う。けど鈴は可愛いから、ちゃんと女子の格好をすべきだとも思っている。」
誰が見ても、今の鈴は立派な黒崎の姫に見える。
たかが着物一つで、それだけの美しさを放つ鈴に俺が落ち着かないからと今までの着物に着替えろと言うのは気が引ける。
「それよりも…、なんだか臭いぞ。」
俺の胸元に顔を寄せて、犬のようにクンクンと匂いを嗅ぐ。
「姫が…、はしたないぞ。」
「だって…、何か匂う…。一体、神路は何をしてたのだ?」
「ちょっと、野郎共と戯れていた。」
「汚れたら湯浴みをしろ…。それでも、この屋敷の主なのか?」
風呂から逃げ回っていた糞ガキから、風呂に入れと説教を受けるとは思ってもみなかった。
「鈴も一緒に入るか?」
「入らない。鈴は何かと忙しいのだ。」
義父の部屋の片付けがあると言って、気まぐれな仔猫は俺の腕から飛び降りる。
「そんなの後でいいだろ?」
「聞こえなかったのか?鈴は忙しいと言ってる。」
正直、ショックだった。
留守番をさせられた挙句のこの仕打ち…。
覚えてろと俺が言う前に鈴は多栄を伴い部屋から出て行く。