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戦場に響く鈴の音
第18章 打掛
何なんだ?
あの態度は?
鈴の変わりように俺だけがついて行けてないという感覚を味わされて段々と腹が立って来る。
「雪南っ!」
鈴が居なくなった部屋から飛び出して、いつもと変わらない雪南を呼び付ける。
「今度は何事であられますか?」
呆れた声を出す雪南が控えの間から顔を出す。
「風呂に行く。お前も付き合え…。」
「は?」
「風呂だよ。」
「お断りします。私は忙しい身です。」
「うるせえっ!俺の命令には従えっ!」
駄々を捏ねるだけの糞ガキは俺の方だとわかっている。
それでもガックリと項垂れながらも雪南は風呂に向かう俺の後ろについて来る。
道中ですれ違う女中に俺と自分の着替えを脱衣場へ持って来いと申し付けた上で、台所宛に今夜の夕餉の指示を書いた文を届けさせたりもする雪南は本当に忙しい身なのだと感心する。
「いいね…、お前は…。」
湯船に浸かって出て来る言葉は雪南への嫌味だけだ。
「何がですか?」
髪を洗い流し終わった雪南が不貞腐れた表情で俺を睨んで来る。
昔から、こんな奴だった。
冷たく俺を突き放す様な態度を取るくせに、不機嫌な表情のまま必ず俺の傍に控えている。
「やることが山ほどあって、俺みたいに暇じゃない。」
拗ねて、そう答えればプッと吹き出す雪南が居る。
主に対して失礼なと雪南を睨み返せば
「貴方は余りに忙し過ぎて、自分が忙しい身だと気付いてないだけですよ。」
と言ってクスクスと笑いやがる。
「俺が忙しい?」
「寧ろ器用だと言うべきですか?面倒な笹川の姫を嫁に貰いながら、拾われっ子の妾を置くなど普通の男ならそんな生活は面倒だからと絶対にやりませんよ。」
涼しい顔で言われる嫌味ほど堪えるものはない。