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戦場に響く鈴の音
第19章 強欲
黒崎の為に…。
それが雪南の口癖みたいなものだ。
「なら、黒崎の為と考えた場合、俺が彩里を蔑ろにして鈴に構うのは間違いではないのか?」
義父が今の俺を見れば、失望するかもしれない。
その不安が俺に迷いを持たせる。
「御館様は鈴を見捨てる様な方ですか?」
雪南が義父の事で目付きを変える。
義父に対する入れ込みようは俺よりも雪南の方が強い。
「義父は…、そんな漢ではない。」
黙って俺を受け入れ、鈴も受け入れようとする人だ。
世間じゃ、人が良いだけの筆頭老中だと言われているが、大城主の信頼も厚く、人に対する情けを重んじる義父は多くの家臣から尊敬も集めてる。
「ええ、御館様はそんな漢ではありません。誰よりも鈴を大切に想い、鈴の尊に重きを置かれるお方です。その鈴が貴方を選んだというのに笹川の姫との婚姻でお心変わりでもなされましたか?」
「それは無いな。彩里を不憫だと思う事はあっても彩里を愛おしいとは思えない。」
「不憫…ですか?」
「不憫だよ。見向きもしない夫を必死になって繋ぎ止めようとしている。それが笹川の為と彩里は信じて疑ってないからな。」
そう話せば雪南の瞳が一瞬だけ、光を灯して伏せられる。
「馬鹿な姫だ。」
「そうだ。馬鹿故に不憫だと思う。」
「黒崎様…、同情は…。」
「わかってる。全ては黒崎の…、そして大河の為、蘇の為の婚姻だ。同情などするつもりは毛頭ない。」
この戦国の世と化した世界は四国(よんごく)体制が崩れつつある時代へと移行している最中である。
四国体制など廃止して蘇が全てを治めてしまえば早い話となるのだが、それはそれで神国からすれば蘇の大城主である大河は帝の脅威だとなりかねない。