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戦場に響く鈴の音
第19章 強欲
それが故に、御館様は冴の姫を娶り、事実上の冴の後継者の座を得る形という控えめな形で冴を統べる路を選択した。
それと同じ状況を俺に与える事で由の攻略を促している。
元より由はかなり貧しい国…。
大城主は家臣の傀儡であり、100万の兵士を統べる事を許されていた支羅城主の李の言いなりだったと聞く。
李の悪政で国は疲弊し続け、俺の様な子が野盗として生きるしかない状況だった。
その李を蘇の大城主である大河様が打ち倒し、李の後釜として50万兵士長である笹川が成り上がる事となった。
そして由は蘇より西元を取り戻さねば貧しいまま滅ぶ国故に笹川は西元を攻撃した。
笹川が崩れた今、由では30万程度の兵を動かせる武将が狭い領地の取り合いに明け暮れている。
このままでは由の大城主が余程の人物が据えられぬ限り、いつ消滅してもおかしくない。
「无が来ると思うか?」
俺以上に世界が見えている漢に問う。
「无が冴への進撃を諦めた以上、由の攻略は必然となるでしょう。神国への野盗の入り込み方から見ても无は限界を迎えてます。」
俺の問いに雪南が慎重に答える。
无の限界…。
この狭い世界で人口が増え過ぎている。
北国で高い山々が幾重にも聳え立つ无は平地が殆どなく、由からも冴からも侵略を受ける対象にはならなかった。
常に攻撃を仕掛けるのは无の方だ。
始めは冴への侵略を進め続けた无であったが、冴は蘇に落ちたと見るや否や由への侵略へと切り替えたと思われる。
无はやたらと情報が少ない国…。
かと言って無視も出来ないという面倒な国である。
「だとすれば…。」
俺が結論を出す前に
────シッ…
と微かな音と共に雪南が唇へ人差し指を当てる。