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戦場に響く鈴の音
第19章 強欲
「鈴に聞かれては困るのか?」
頬を膨らませ口を尖らせる仔猫が打掛の裾を引き摺りながら静かに張り出しへと寄って来る。
パタパタと足音をさせない鈴に気付くのが遅れたなと苦笑いが出てしまう。
「漢同士の話に聞き耳を立てるのは姫君として、はしたない行為ですよ。」
拗ねた鈴を涼しい顔で雪南が窘める。
「聞き耳なぞ立てぬ。神路の夕食を持って来たのだ。」
俺の隣へと、ちょこんと鈴が座れば鈴の後ろに控えていた女中達が俺や雪南の食事を持って現れる。
いつの間にか鈴がこの屋敷の奥方として女中達を従えている事実に少しばかし驚きが隠せない。
「鈴は邪魔のだったか?」
雪南の言葉に傷付いた鈴が俺に救いを求めるように俺の着物の袖を指先だけで掴んで来る。
「いや、大した話じゃないから鈴も居れば良い。」
俺の手元に戻って来ただけで、鈴の全てを許せるほど甘いだけの漢に成り下がる。
「大した話じゃないのに鈴に聞かせたくないのか?」
「雪南の嫁の話だからな。鈴なら雪南が嫁として貰い受けるつもりらしいぞ。」
「雪南が?」
「鈴は俺と雪南のどちらを選ぶ?」
即答で俺を取ると答えてくれると思う俺の期待を裏切る鈴が
「うーむ…。」
と変な唸り声を出し、腕組みまでして考え込む。
「おい…、鈴…、その冗談は笑えないぞ…。」
ここまで来て、雪南と結婚するなどと言い出したら一生立ち直れない気がする。
「鈴は、やはり神路が良い…、けどな。神路よりも雪南の方が男前なのは事実だと思う。」
偉そうな姫がフフンと鼻を鳴らして胸を張る。
「雪南の方が男前って…。」
「この屋敷に務めている女子は皆がそう言ってる。それに雪南の方が綺麗な顔をしてるのは間違いないぞ。」
「お前ね…、そういう時は嘘でも自分の漢が一番だと言いやがれっ!」
「鈴は嘘は嫌いだ。」
可愛げの無い仔猫は相変わらず気まぐれで俺を振り回す。