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戦場に響く鈴の音
第19章 強欲
そんな鈴を膝に抱えてから
「俺の分の芋も食って良いから俺だけにしておけ…。」
とご機嫌を取る。
機嫌を直した仔猫はフフフと小さく笑い、その笑顔は雪南ですら眼を細めて見惚れてしまうほど明るく可愛らしい笑顔だ。
「やれやれ、鈴に黒崎様を取られたようだ。私はそろそろ失礼をして仕事に戻ります。」
僅かな時間だけ俺や鈴の食事に付き合った雪南が席を立つ。
「雪南…。もう行くのか?」
雪南を保護者として慕う鈴が淋しげに俯く。
「くれぐれも今夜は黒崎様に飲ませ過ぎぬように…。明日には御館様が天音に入られるのだから…。」
俺にしっかりと聞こえるように鈴にそう言い含めると雪南が張り出しから出て行く。
鈴には雪南の命令が絶対だ。
「神路…、食事をしたらすぐに寝るぞ。」
俺の胸ぐらを掴む鈴が真剣な眼差しで俺に言う。
「いや、待て…。お前は俺の言葉より雪南の言葉の方が大事か?」
「雪南の言葉はおっ父の言葉だ。おっ父の言葉が一番大事だと大城主様も言っておられた。」
天然娘は俺や雪南の言葉が違うから誰の言葉を優先すべきかと寺子屋時代に御館様に教えを乞うたらしい。
「俺がお前の主で夫だぞ!?」
「うむ…、だが、やはりおっ父の言葉が絶対だ。そのおっ父が困った時は雪南の言葉を優先しろと言ったのだ。」
頑固な鈴はそこは譲ってはくれないらしいとため息が出る。
せっかく綺麗な着物を着た可愛らしい女子を傍目に侍らせているというのに酒の一杯すら、ゆっくりと飲めないとか笑えない。
張り出しの手摺りで頬杖を付き、すっかり暗くなった天音湖の方へと視線を向ける。
対岸に柑の街灯りが見える。