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戦場に響く鈴の音
第20章 我儘
俺の足音に気付く兵士が廊下の戸の前でひれ伏する。
「御館様…、黒崎様がお越しになりました。」
兵士が戸に隙間を開け、俺の来訪を義父に伝える。
兵士は多栄だ。
ならば鈴はまだ義父と居ると確信する。
「神路か…入りなさい。」
いつもと変わらない優しい言葉…。
義父のこの優しさが俺は怖くて堪らない。
こんな風に義父に怯える姿を鈴にだけは晒したくないと思う俺の足は戸の前で進まない。
「黒崎様?」
多栄が不思議そうに見上げる。
これが雪南ならば
『往生際が悪い。』
と言って無理矢理に俺を義父の部屋へ放り込む。
そんな乱暴な振る舞いを多栄に期待は出来ない。
「失礼…致します。」
諦めて義父の部屋へ足を踏み入れる。
「遅いぞ。」
そう言って口を尖らせるのは義父ではなく、義父に娘のように寄り添う鈴だ。
「客人が増えて色々と忙しいのだ。」
モゴモゴと言い訳をすれば
「ならば、こちらに来るのは後でも構わぬよ。神路には何かと仕事があるのだろう。」
と義父の方が俺に気を遣う。
気を遣わせてしまう息子…。
いつも、そうだ。
ガキの頃はそれで良かった。
今は分別というものを知ったお陰で義父に気を遣わせてしまう自分の不甲斐なさに嫌悪を感じる。
「おっ父…、寒くはないか?お茶のお代わりを持って来ようか?お腹は空いてないか?斎我に頼んでおっ父の好きな菓子でも用意させようか?」
立ち竦んだままの俺の目の前で鈴が義父の腕に甘えるように手を添えて義父に笑顔を見せている。
鈴の方が義父の娘として相応しいと思う。
親を知らない俺は義父に甘えたりが出来るガキじゃなかった。