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戦場に響く鈴の音
第20章 我儘
義父が俺に与えようとしてくれた物を全て要らないと言い切り、欲しい物は我が手で手に入れてやると世迷いごとをほざいた。
義父はそんな俺を黙ったまま笑って見守ってくれた。
今更、黒崎を俺の為に下さいなど言えるはずもない。
「鈴…、頼みがある。私が持って来た鴨を斎我がどのように料理して、今夜の宴に出すつもりか聞いて欲しい。それから雪南を探し、しばらくはこの部屋に人を近付けぬよう指示してくれ…。」
義父の言葉に鈴が瞳を大きくする。
「おっ父…。」
驚く鈴の顔を義父は慌てて撫でる。
「要件が済めば鈴だけは帰っておいで…、人払いをしても鈴だけはいつでも私の部屋へ来れば良い。」
「わかった…、鴨の料理方を聞いて雪南に人払いをさせたら、すぐに戻る。」
「頼むよ…。」
義父の手を鈴が名残惜しそうにひと撫でしてから手放し、部屋から出る。
俺の為の人払い…。
身勝手な主だった俺から留守番を言い付けられた鈴は、このようにして、ずっと義父の傍で俺の帰りを待ち続けたのだろう。
幼き鈴に菓子を与え、本を与え、義父の傍に当たり前のように寄り添う権利を与えた義父には感謝の気持ちしか湧いて来ない。
「ありがとう…ございます。」
初めて本気で義父に頭を下げていた。
こうやって俺はずっと義父に守られていたのだと実感が湧くと恥ずかしくもあり、頭を上げられなくなる。
「──らしくないな…。」
義父がふふと小さく笑う。
「そう…ですか?」
「ああ、昔のお前なら、余計な事は要らぬと言って私からそっぽを向いてしまう子だった。」
「それは…。」
それだけ俺がガキだった証拠だ。
なのに義父はそんな俺で構わぬと許せてしまう凄い人だ。