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戦場に響く鈴の音
第20章 我儘
「それで良い…、神路…。お前は何も持たぬ子だった。いつだって自分が欲しい物は自分自身の手で無茶をしてでも手に入れようとする子だった。私も大河様もお前のその強さが蘇に必要だと思いお前を育てる事を決めたのだ。」
日頃は口数が少ない義父が雄弁に語る。
「それでもな…、神路…。お前はそれで良いのか?己を傷付けて、大切な鈴を傷付けて…、それでも笹川との婚姻はお前に必要な事なのか?」
義父の瞳には哀しみが浮かんでる。
「黒崎はもうお前のものだ。大河様もそのつもりだ。なのにお前は与えられるだけなのは嫌だと言って黒崎を手に入れる為に意にそぐわない婚姻を受け入れようとしている。」
義父が言いたい事はわかる。
俺が素直に与えられた役目だけを受け入れる事が出来れば、彩里も鈴も誰も傷付ける必要がなくなる。
「无が来ます…。」
わかってて、俺は義父の言葉に反論する。
「无が?」
「雪南も、そう読んでます。あれが来る前に俺は蘇の為に笹川の領地を治めなければなりません。」
「そんな事は他の者に任せれば良い。」
「いいえ、俺は戦場でしか生き抜ける方法を知りません。俺が蘇や大河様、黒崎や義父の為に出来る事はそれしかない。そんなやり方でしか俺は鈴を守れない。」
義父に甘えるだけで鈴を手に入れるようなやり方では、俺は鈴を愛せない。
義父や大河様が期待するほど、賢い嫡子にはなれないのだと義父には謝る事しか出来なくなる。
「もっと…、自由に生きても構わぬのに…。」
義父が俺の為に嘆いてくれる。
その優しさが、やはり苦手だと笑うしかない。
「神路…、くれぐれも無茶だけはせぬように…。」
義父が口にするのは、いつだって俺への心配だけだ。