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戦場に響く鈴の音
第20章 我儘



俺は義父に感謝の気持ちを表す為に、もう一度、頭を下げる。


「笹川の姫は…、どうだ?」


不安そうな義父の声…。


「どう…とは?」

「良い姫か?」

「残念ながら…。器量は人並み…、常識は皆無…、台所を任せれば、あっという間に黒崎を破産させてしまうかと…。」


俺の説明に義父がポカンと口を開く。


「そりゃ…、なんと言うべきか…。」

「何も言わずとも結構です。」

「いや、神路が胡蝶や鈴のような器量を姫に高望みをし過ぎではないのか?」

「高望みかどうかは雪南に聞けばわかりますよ。」

「そんなに…、酷いのか…。」


変な話でうーむと悩み出す義父に呆れて来る。

鈴とは違い、彩里を表に出せば黒崎の恥になりかねないと説明をしたところで、黒崎家臣全体を考えれば正妻を隠し続ける事は不可能だと義父は悩む。


「そんな事で義父が悩む必要は…、婚礼の儀も彩里を無理には出さない方向で雪南は考えております故…。」

「そういう訳には行かぬ。黒崎の嫡子が迎えた嫁を儀で披露出来ぬなど、示しが付かぬ。」

「先に天音入りを果たした者は既に鈴を受け入れております。」


今更、彩里が正妻だと披露すれば黒崎内部で割れかねない。

それでも義父にはそこは譲れない部分らしい。


「明日、姫に挨拶をする時間はあるのだろう?」

「ええ…、まあ…。」

「それから考える事にする。」


義父がそう締め括る頃に、部屋の戸が少し開く。


「おっ父…、お茶をお持ちした。」


情けない表情で鈴が顔を覗かせる。


「お帰り…、鈴…。鈴はよく気の付く子だ。」


鈴が拾われっ子でさえなければ…。

義父を含め、誰もが思う事を気持ちの奥へ押し込める。


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