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戦場に響く鈴の音
第3章 羽織



これは无に対して帝の権威を守るのは蘇であるというデモンストレーションの意味をも含む。

蘇の兵は5万。

蘇と同じように帝からの命が下った冴の兵は3万。

そこに加えて神の5万という兵力により、北側から无より神の国境へ1歩でも侵入した野盗は全てがこの世から抹消される。

その13万に及ぶ大軍の総指揮を取ったのが、この蘇の宰相、秀幸である。

秀幸がこの任を受けたのが半年前…。

帝が満足する結果を出すには1年は掛かるだろうと言われた任を半年で終えて秀幸は帰って来た。

よりによって俺の帰還に合わせたように…。

御館様の労いが終わり、謁見の間が宴に変わる。

集まった家臣に夕餉(ゆうげ)が振舞われ、御館様と酒を酌み交わす。

芸妓と花魁が呼ばれ、さながら遊廓を思わせる派手な宴の中で俺は無言のまま過ごす事になる。


「秀幸、秀隆の具合は?」


御館様が秀幸から秀幸の父親の具合を確認する。


「もう永くは無いかと…、右脚を失い、自力で立てぬ身では食も進みません。」

「そうか…。」


御館様が遠い眼差しで回廊の方へ視線を投げる。

回廊の向こう側は城内にある中庭が見える。

その中庭に咲く藤の花…。

確か秀幸が小姓として黒炎に伺候した折に秀隆が大河に送ったものだと秀幸から聞いてる。


『お前は帰りたくないのか?』


黒炎から何故そんなにも逃げ出したいのかと秀幸から聞かれた俺は秀幸にそう聞いた。


『ここには父の尊(みこと)が居る。』


秀幸は藤を見てそう答えた。

そして…。


『お前が求める尊はこの黒炎には無いのか?お前は一体何処へ帰りたいのだ?』


と秀幸に聞かれて俺は答えに迷う。

俺が求める尊とは何だ?

俺が帰りたいと思う場所は?

俺に飯を食わせた野盗の頭領はもう居ない。

俺を奴隷小姓として飼ってた李も居ない。


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