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戦場に響く鈴の音
第20章 我儘
「近江(おうみ)と木下(きのした)によろしくな…。」
戸の外へ出された俺の背に義父は一言だけを伝えて来る。
近江と木下…。
婚姻祝いの為の挨拶のリストのトップにその名があった。
義父の一番の家臣は蒲江と亡き風間だ。
しかし、風間亡き後を引き継いだのが近江と木下…。
義父の家臣は武士に馬鹿にされがちな文官が多く、武士として仕える家臣は限られる。
しかも近江と木下の嫡子は2人とも寺子屋で秀幸の同期だった。
出来が良く、大河様の小姓を務めるほどお気に入りだった秀幸が気に入らないからと黒崎に付いた2人の扱いには気を付けろと暗に義父が警告する。
敵は黒崎内部にも存在する。
近江や木下ならば彩里のご機嫌取りをして黒崎の新たな未来を造り出そうと勝手な事をやりかねない。
やり辛いな…。
義父の家臣ばかりに頼れないのは、そういう連中が居るからだ。
自室へ戻り、義父が連れて来た家臣の中で俺が使えそうな人物だけを模索する。
鈴が戻らずベッタリと義父の傍に居る状況だが、これはこれで助かるとか考える。
春までは俺の為に義父が天音に居てくれる。
それまでに俺は雪南を中心とした俺に忠義を誓う家臣で足元を固めなければならない。
考える事が多過ぎて考えが纏まらない。
「おっ父を迎えた宴が始まるぞ。」
いつの間にか鈴が帰っていた。
「久しぶりに義父と過ごせて楽しかったか?」
「おっ父は神路よりも愉しい人だからな。鈴に絵本を読んでくれたのも神路でなくおっ父だった。」
「俺が居なくとも義父が居れば良かったと言うつもりか?」
鈴の身体を引き寄せれば、ふふふと幸せそうに鈴が笑う。
「おっ父は鈴のおっ父だ。育ててくれたのはおっ父だが、鈴が愛してるのは神路だ。」
今や、立派な黒崎の姫君だというのに、鈴がはしたなく俺の口へ強引な口付けを交わす。