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戦場に響く鈴の音
第20章 我儘
そんな風に鈴が触れるだけで俺は考えなければならない事の全てを忘れてしまう。
「お2人とも…、宴に出ないおつもりか?」
雪南の冷たい声で自分達の置かれた状況を思い出す。
「そうだ。神路…、おっ父の為の宴だぞ。」
「鈴、黒崎様を呼んで来いと命じたのだ。黒崎様と遊べとは命じた覚えがないぞ。」
「ほら、神路のせいで鈴が雪南に怒られた。」
どうやら、我が家の家族は誰もが主である俺が悪いのだという事で状況を収めようとするらしい。
「俺のせいか?」
そう口答えをしたところで
「主である貴方が遅刻して、どうするおつもりですか…。」
と雪南が睨み
「だから、早くと鈴は言った。」
と鈴はそっぽを向きやがる。
「もう良い…、行くぞ…。」
部屋を出て大広間へと向かう。
大広間の手前には、畳が敷かれた廊下の様な長い部屋があり、宴の裏方にしか参加が許されていない末席の家臣達が並んでる。
その集団の中央辺りに座っている寺嶋が俺や鈴を見て頭を下げる。
警護の責任者とはいえ、寺嶋の位では黒崎の中ではこの程度の位置となる。
今はまだ黒崎内部での勢力図は義父が描いた物であり、それを覆すだけの実績が俺に足りないという事だ。
その廊下を抜け、大広間へと入れば左右に居並ぶ家臣達が一斉に頭を下げてひれ伏す。
まだ末席に近い風真…。
今日は息子を連れた羽多野の姿も見えるが、その羽多野ですら中央辺りに座っており、本来ならば羽多野の後ろに控える須賀が進行役として唯一、上座に近い席に青ざめた顔で座っている。
一番上座に近い席に居る蒲江の当主、友近(ともちか)と嫡子の和希の姿を見ても俺に付き添う雪南は眉一つ動かさぬ。