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戦場に響く鈴の音
第20章 我儘



その蒲江親子の対となる正面に座るは、木下と近江の親子…。

自分の親には目もくれぬ雪南だが、木下と近江にはチラりと視線を向けやがる。


「遅かったな…。」


宴は既に始まってると高座に座った義父が笑う。


「寝坊したもので…。」


俺が寝坊するのはいつもの事…。

嫁を貰った今でもだらしがないままの黒崎の嫡子なのだと家臣達の油断を誘う。


「いやいや、御館様、嫡子はまだ新婚…。黒崎の名に恥じぬ老中となるのは、これからだと期待すべきですぞ。」


豪快に笑って俺が黒崎として未熟だと口火を切るのは近江だ。

高座に座る義父に向かって自分アピールには余念が無い男という印象を受ける。


「こういう経験が人を少しづつ変えていく。我々、年寄りは大きな変化を望みませぬから…。」


近江とは違い、遠慮がちに言葉を発するのが木下の性格らしい。

俺が未熟なままなら、今まで通りにのんびりとした黒崎のままで居られるとほくそ笑みやがる。

その考え方は息子達も同じのようだ。


「この調子の黒崎ならば家臣も領地の民もまだまだ安泰だと思うに違いない。」

「結局、無闇な戦を起こして喜ぶのは肉体自慢の武士だけだ。しかし武士とは、その尻拭いをさせられる文官の事など考える頭を持ち合わせて居らぬからな。」

「最近ではあの大城主ですら城からは出ずに落ち着きを見せている事だし…。」

「それは宇喜多が宰相として手網を握ってるからだろ?」

「古き力で支配する時代は直に終わると世迷いごとを言うのが宇喜多の口癖の様なものだったからな。」


ゆっくりと義父の横へと座る俺の耳へは、そんな会話が聞こえる。

父親には似ず、文官肌が強い息子達の会話…。

義父の警告はそういう意味かと納得する。


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