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戦場に響く鈴の音
第20章 我儘
「無礼であるぞ。」
ダラダラとした宴の空気の中を凛とした力強い声が通り抜ける。
「りっ…。」
声の主が鈴だと気付き、慌てて止めようとした俺を何故か義父が手を上げて制す。
てっきり、俺の後ろについて来てるものだと思っていた。
だが、鈴は木下と近江の前で立ち止まり、美しい顔を嫌悪に歪めたまま木下達を見下ろしている。
宴の大広間が鈴の声で静まり返る。
「大城主、大河様は誉れある武士…、それに長く仕える黒崎は大河家の筆頭老中であり誠なき武家である。それなのに、大城主は戦場に出ない方が良いと愚弄するなどあってはならぬ事だ。」
日頃は鈴が鳴るような可愛らしい声しか発せぬ鈴が武家の何たるかを、よく響き通る声で家臣達に唱える。
「たかが嫡子の小姓の分際で…。」
「武家の何たるかを我らに解くというのか?」
木下と近江の息子達が鈴を鼻であしらい嘲笑する。
あいつ…。
寺子屋での剣術の成績はビリから数えた方が早かったくせにと頭を痛める俺はこめかみを指で押さえる羽目になる。
「よう、言うた。鈴…、流石に我が娘だと誇りに思う。身内だけの宴とはいえ、誰が聞いてるかわからぬ場で大城主様の行いを語るは誠に無礼な行為である。」
義父が鈴を庇うように言葉を発して立ち上がる。
鈴に寄り添い、まだ怒りに表情を曇らせる鈴の肩へ義父が手を置けば
「御館様の仰る通りでございます。愚息共には、我らからよく言い聞かせます故…。」
と木下と近江が形だけの謝罪を見せる。
「そうだな…、黒崎は何があろうと大河様に仕える身…、戯れ言とはいえ大城主様の名を迂闊に出してはならぬ。」
「ええ…、御館様の仰る通り…。」
「良い良い、今宵は無礼講とした私の判断が悪かった。酒の席とはいえ鈴の言う通り…、くれぐれも会話には気を付けようぞ。」
鈴を誘いながら、ヘラヘラと笑う義父が高座へと戻る。