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戦場に響く鈴の音
第20章 我儘
心臓に悪いと思う。
義父のお気に入りの娘…。
その立場がなければ、鈴はさっきの一言で切り捨てられていても不思議ではない。
俺自身も黒炎に居たガキの頃は生意気だと言われ武士達からは何度も刀を向けられた。
その刃を跳ね返す力があった故に、今の俺の立場がある。
「なんで、あんなのがおっ父の一番の家来なのだっ…。」
流石に声は潜めるが鈴が怒りを俺にぶつける。
頭が良い子とは厄介な事だ。
状況の判断が早過ぎて、そのまま自分の感情を剥き出しにして晒してしまう。
「風真亡き後の黒崎は文に重きを置いたからな。」
風真の事は薄らとだけ覚えてる。
御館様の命で俺の首に繋がれた鎖を切ろうとした漢…。
武士らしく良い体格をしており、口髭を咥えた中年の男が俺の首から鎖を解いた瞬間、チラりと笑顔を向けた。
その僅かな笑顔が凍り付き
『大河様っ!』
と叫ぶなり御館様に向かって刀を振り上げた由の兵士に頭から切られてしまった。
由の兵士は俺の見張り役だった兵士だ。
風真を切った兵士は即座に御館様が振るう刀で切られて終わった。
その時の御館様の苦痛に歪んだ顔が今も忘れる事が出来ない。
『風真の命の分もお前は生きなければならぬ。』
そう呟いた御館様は俺に名を与え育ててくれる。
そして、黒崎の義父に俺を託すと決めた。
風真を失った黒崎の為に…。
だから俺が率いる黒崎は武に重きを置く黒崎でなければならない。
鈴は義父と過ごす僅かな時間の中で、その事実をしっかりと感じ取る賢い女子だと感心する。
「あれは大河様やおっ父、神路に対する侮辱だ。」
苛立ちを見せる仔猫を義父が優しく窘める。