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戦場に響く鈴の音
第21章 円満



「妻として…、とは?」


流石に彩里が不憫だと義父が真面目に問う。


「神路様にどれだけの妾が居ようと構いません。妾は父の万里にも居りました。一家を率いる殿に妾の一人や二人が居るのは当たり前の事と笹川の姫として充分に熟知はしております。」


家を絶やさぬ為の妾…。

それを彩里が口にするとは驚きだ。

自分は寛容な妻であると前置きをする彩里だが、こちらに対する彩里の積りに積もった不満と要求を寛容に受け入れれば痛い目を見るのは当然、黒崎の方となる。


「ですが、今の私は台所すら使わせて頂けず、この離宮に閉じ込められたまま…。」


彩里の不満が爆発する前に


「由への手紙など、外への連絡手段は認めている。監禁してる様な言われを黒崎が受ける覚えはない。」


と雪南が彩里を制す。


「お茶一つ自由に飲めぬ。これでは監禁と変わりませんわ。」

「お茶なら毎朝、離宮用に湯と茶葉を届けている。なのに昼前にはお代わりを申し付けた挙げ句、湯は庭に捨て、茶葉だけが何故か由の弟君宛に出された荷物に詰め込まれている。」

「それは…。」

「姫が本気で黒崎の妻だと言われるのであれば、この様な浅ましい行為を行う真意を問いたい。」


雪南が彩里の行動を晒せば、真っ赤になる彩里が鬼のような表情で雪南を睨み付ける。

ケチ臭い話だと、更にため息が出る。

茶葉は高級茶葉には違いない。

数gの量であっても街商人の一週間分の稼ぎに価する。

それを必死に掻き集めて由の弟の小遣いにしろと送る妻とかはしたないを越えて、死にたいくらい恥ずべき事だ。


「私に台所を譲らぬ理由はそういう事ですの?」


懲りずに彩里は雪南に食い下がる。


「姫のように、黒崎の持ち物を惜しげも無く由に貢がれては黒崎に待つ未来は破綻のみですからね。茶葉だけならまだしも、生活費にと充てた金子までもが笹川へ送られている。」


いつもの冷たい声が淡々と語る。


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