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戦場に響く鈴の音
第21章 円満
後の事は、余り覚えてない。
「神路っ!?何があったのだっ!?」
鈴の叫び声だけがする。
頭が沸騰しそうなほど熱くて、自分が自分ではない気がする。
俺の中に鬼が居る。
その鬼が気に入らない人間は全て切ってしまえと笑いやがる。
鬼の言霊を聞いてはならぬ。
聞けば己も鬼と化す…。
天音には、そんな古き言い伝えがあると義父から聞いた事がある。
目眩を感じる頭で義父の言葉を思い出そうとする。
あの時…。
義父は俺に何を言おうとしていたのだろう?
ぼんやりと霞む眼で辺りを見渡してみる。
「神路…。」
小さな手が俺の額を撫でると、心配そうな表情の仔猫が俺の顔を覗き込む。
「鈴、どうした?」
今にも泣きそうな鈴に問えば
「それは鈴が聞きたい。何があったのだ?帰るなり神路が意識を失くした。神路が死ぬかと思った。鈴は凄く怖かったんだぞ。」
と言い、俺の胸の辺りにしがみつく。
「そうか…、少し疲れただけだ。」
鈴の小さな頭を撫でやっても肩を震わせたまま、鈴が感じた恐怖をそのまま俺に伝えて来る。
「怖かった…。雪南は少し休めば大丈夫だと言った。でも、鈴は怖かったの。こんな事が起きるならば二度と離宮には行かせない。」
「そうは、いかねえよ…。」
「いいや、構わぬ。おっ父に鈴がお願いする。鈴は黒崎の姫になれなくても良いからとお願いする。」
「俺が…、鈴を黒崎の姫にしてやりたいんだ。」
「鈴は、そんなものは望まぬっ!」
険しい表情をする鈴が赤い唇をキュッと噛み締める。
鈴からは怒りを感じるのに、俺はその美しさに見惚れてしまう。
俺が望まぬ女子は黒崎の妻である扱いをしろと迫るのに、俺が手に入れたい女子は黒崎の姫になる事を望まぬと否定する。
鈴だけは俺だけの美しい姫であって欲しいと思うのは俺の身勝手だとは思いながらも願わずにはいられない。