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戦場に響く鈴の音
第21章 円満
その小さな肩に手を置けば、鈴が悔しげに唇を噛む。
「急がなければ…。」
「急ぐ必要はない。」
傷付けたのは俺なのに、慰める為に俺の唇が鈴の頬へ触れる。
「大丈夫…、鈴は神路さえ居れば良い。」
自分に言い聞かせるように、何度もその言葉を呟く鈴が俺の身体に腕を回ししがみつく。
「ああ、そうだ。鈴は俺の傍に居れば良い。」
仔猫が泣き止むまで俺は仔猫を抱き締めてやる。
この子を守る為に俺は鬼になると決めた。
もしも、俺が鬼に喰らわれれば雪南が俺を切る。
だから鈴の温もりで俺は正気を保つ。
「行こう…。」
泣き止む仔猫は俺を寝室から連れ出し、風呂へ向かう。
長い廊下の向こう側には雪に染まる庭が見える。
「神路…。」
「ああ、雪が降り出した。」
「そうか…、早く春が来れば良いな。」
そう言う鈴が暖かな陽射しの様な笑顔を俺に向ける。
真っ白な雪の中に注がれる、儚い陽射し…。
その笑顔だけを守りたいのだと俺がキツく鈴の手を握れば鈴は穏やかな表情をして俺に寄り添い続ける。
二人で風呂を済ませ、母屋の応接へ向かう。
応接の入り口の前で俺を待っていた雪南は何も言わずに客人を呼ぶ為に姿を消す。
こちらの応接は畳だけが敷かれた普通の客間となっている。
その部屋の片隅にある暖炉に鈴が薪を焚べる。
「寒くないか?」
鈴の質問に
「鈴は暖炉の傍にいろ。」
とだけ答えてやる。
「近江様がご挨拶に…。」
と雪南の声がして応接の戸が開く。
「これはこれは…、黒崎様…、此度の婚姻の儀が正式に決まったとお聞きし、この近江、一族を代表して御祝いのご挨拶にと駆け付けさせて頂きました。」
息子を連れた近江が俺の前に敷かれた座布団に胡座をかいて座る。