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戦場に響く鈴の音
第22章 初夜
笑ってるような、泣いているような宮司の顔にますます吐き気が込み上げる。
「落ち着いて下さい。着きましたよ。」
宮司が小さな部屋へ俺と彩里を誘い込む。
そこには鏡が祀られた小さな祭壇があるだけだ。
「あれは?」
そう尋ねれば
「あれが帝の尊であらせます。」
と宮司が答える。
「あの様な小さな鏡が尊だと?」
「鏡は全てのものを写し出す。帝は全ての人の心を見られるようにと願い、この鏡にご自分の尊を移されました。」
「戯れ言だな。」
「左様…、戯れ言かもしれませぬ。それは人の縁も同じ事…。夫婦として縁を成しても、戯れ言のように終わってしまう。貴方方、夫婦がそうならぬようにと我ら宮司は祈るだけです。」
不思議な空気を醸し出す宮司が俺と彩里の為に祈りを捧げる。
そんな祈りは迷惑だと思う俺は宮司から目を逸らす。
「神路様…。」
彩里だけが満足そうな笑みを浮かべて笑ってやがる。
「終わったなら行くぞ…。」
彩里に背を向けて俺だけが廊下を歩き出す。
「お帰りはこちらです。」
宮司がさっきとは違う廊下を指す。
「来た道と違うな。」
「ええ、所謂、近道という奴です。」
涼しげに笑う宮司に寒気がした。
その廊下は一本しかなく、真っ直ぐに進めば俺と彩里が入って来た玄関に辿り着く。
「こちらの廊下を辿れば、帝の尊まであっという間ではないか。」
呆れる俺を宮司が笑う。
「それが不思議な事にこの廊下は絶対に向こう側へは行けない仕組みになってるのです。」
「どんな仕組みだ?」
「知りませぬ。ただ、我ら宮司にはこの社を造ったのは鬼だとだけ言い伝えられています。」
「鬼だと?」
「ですから、帰りは振り向かずに真っ直ぐに社から出て下さい。でなければ鬼に喰われると聞いております。」
おかしな宮司に見送られて俺と彩里は社を出た。