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戦場に響く鈴の音
第22章 初夜
「なんだか、怖いわ。」
立ち去る宮司を見ながら俺の腕に弛む胸を押し付ける彩里が怯えた声を出す。
彩里ならば鬼に喰われた方が都合が良いとか考えてしまう。
いや、彩里だと鬼の方が逃げ出すかもと結論に達した俺はため息と共に再び彩里を担ぐ事となる。
階段の下では輿が一つだけになり、雪南以外の者の姿がない。
「皆は?」
「先に屋敷へ帰られました。これから披露の宴があります故…。」
「俺は不参加で良いか?」
「良い訳がございません。」
俺の尻を蹴飛ばすようにして彩里が入った輿に雪南が俺を無理矢理に詰め込む。
気不味い夫婦が乗る輿がゆっくりと屋敷へ向かって動き出す。
「わかってますわ。私は神路様に愛されていない事くらい…。」
この後に及んで、まだ彩里が自分の愚痴を俺に押し付ける。
「わかってるならば黙ってろ。」
「嫌です。私は黒崎の妻…、それだけは何があろうと神路様に認めて頂きます。」
「認めてやってるだろ。」
「違うわ。神路様は大殿様が連れていたあの姫しか見ていなかった。あれが神路様の妾ですのね…。」
「…。」
無言になる俺に彩里だけが語りかける。
「所詮は妾…、妻とは違う。私は必ず神路様の為に黒崎の嫡子を産んで差し上げます。妾など、年老いて醜くなれば見向きもされぬ存在だとわからせてみせますわ。」
一人で興奮する彩里に冷めた感情しか湧かない。
年老いて醜くなり、捨てられるのは彩里だろう。
この戦国の時代は惨い世界だ。
女子ですら、醜い戦を演じる。
彩里の相手は面倒だと寝たフリをしてる間に、俺と彩里が乗る輿は屋敷へと帰り着く。
大広間へと移動し、雛人形のように俺と彩里が並ぶ前で黒崎の祝いだと家臣達が酒を飲む。