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戦場に響く鈴の音
第22章 初夜
いつぞやに感じた痛い視線を感じる。
あれは黒炎で胡蝶と居た俺に向けられ続けた視線だった。
妻となった彩里はそんな視線には気付きもせず、家臣達へ魔女の様な微笑みを見せ付ける。
「鈴…。」
義父の後ろに隠れるようにして座る姫を俺の傍に呼ぼうとすれば
「神路様…、今宵はもう部屋へ戻りましょう。」
と言う彩里が俺の腕にしがみつく。
「宴の最中だぞ。」
「今宵は初夜…、それが終わらぬ限り、神路様はあの妾の元へ戻る事が許されませんわ。」
「お前っ…。」
「言ったでしょう。妾は所詮、妾…。神路様が帰る場所は私が居るところとなりますのよ。」
わざと鈴に見せ付けるようにして彩里は俺の身体へと自分の身体を預けて来る。
今にも泣きそうな瞳を見開いた鈴が席を立ち大広間から出て行く。
鈴の後を追う多栄の姿も確認した。
今宵だけの辛抱だ。
あれは俺が帰らぬというだけで食事すらしなくなる。
勝ち誇る笑みを浮かべる妻に苛立ちだけを感じる。
全てを持って産まれた女子のくせに、何も持たずに産まれた者からまだ搾取して取り上げたいのかと自分の妻を怒鳴り上げたい気持ちを堪えて宴をやり過ごす。
「さあ、神路様…、参りましょう。」
魔女が俺を連れて宴の席を立つ。
夫婦円満だと、何も知らぬ家臣達だけが馬鹿騒ぎを続ける。
グッと俺の手首を誰かが握る。
「黒崎様…。」
身構える俺の前に雪南が跪く。
チッ…。
彩里の舌打ちが聞こえる。
「雪南か…。」
「離宮まで…、お供致します。」
「義父は?」
「御館様ならば羽多野殿が付いております。」
「そうか…。」
義父も鈴も安全であればそれで良いと割り切るしかない。