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戦場に響く鈴の音
第22章 初夜
不満を顕にする彩里を無視する雪南は俺に寄り添い離宮へと向かう廊下を歩く。
「ねえ、神路様…、もう夫婦なのですもの…、あの護衛の者は必要がないとは思いませぬか?」
甘えるように俺の腕に手を掛ける彩里が俺の耳元で囁く。
鬼の言霊に耳を貸すな…か…。
自分の都合だけしか言わない彩里の言葉を聞いてられないと無視すれば、彩里は不満を露骨に顔に出し俺の腕をギュッと強く掴んで俺の意識を自分の方へと向けさせる。
「お前…、黒崎の妻になると決めたんだよな?」
少しは頭を使えと言いたくなる。
「私は、もう妻だと申し上げましたはず…。」
「ならば蒲江の一族に対する黒崎の態度くらい見ればわかるだろ?」
「蒲江?」
「黒崎の二本刀…、その一本が蒲江だ。」
夫婦披露の宴で愛想だけを振り撒き続けた彩里には家臣の立場や位置関係までが理解出来ていない。
お飾りの妻に今更の説明など無意味だと彩里の手を振り払う。
「あの程度の男が黒崎一の家臣だと言われるのですか?」
訝しげに雪南を睨む彩里が聞いて来る。
無知な彩里の雪南に対する侮辱は雪南の主として流石に認める訳にはいかない。
「あの程度の男よりも更に剣術が劣る男にお前の父親は討たれたという事実を忘れたのか?」
多分、彩里にとって、これ以上の侮辱はないだろうと思われる言葉で俺は彩里を突き放す。
「父は…、貴方の卑怯な不意打ちに負けたのじゃ。」
「その卑怯な男の妻となったんだろうが…。」
「正々堂々と戦えば…、父は誰にも負けはせぬかったはず…。」
「先に不意打ちという卑怯なやり方で黒崎の城を焼いたのがお前の父親なんだよ。」
戦とはそういうものだと女子である彩里に理解をしろと言っても、それは無駄な事だとわかってるのに言わずにはいられない。