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戦場に響く鈴の音
第22章 初夜
俺と彩里は違い過ぎる。
彩里は父親の万里が誇りであり、亡くなった今でも父親の威光に縋り付いているようにも見える。
「神路様は花火をご存知?」
天井に向けてランプを彩里が擡げれば、ステンドグラスの虹色の光が天井全体にキラキラと拡がりを見せる。
「空に花を描く代物だろ?」
知識だけはある。
但し、この国では花火はご禁制の代物だ。
「私は一度だけ見た事がありますの…。」
「花火は禁じられている。」
「ええ、でもお父様が大城主様にお願いをして、私の為に一度だけ花火を上げて頂いたの…。あれはとても幻想的で素晴らしい一時でしたわ。」
彩里は満面の笑みを浮かべるが、俺は冗談じゃないと彩里の腕を掴んで確認する。
「花火を打ち上げたと申すのかっ…。」
「ええ、私の為にお父様が…。」
「お前はどこまで愚かなのだっ!」
「たかが花火ですわ。」
「お前は何もわかっていない。」
花火が問題なのではない。
何故、花火がご禁制の扱いとなるのかが問題なのだ。
あれは火薬を使用する。
火薬は銃やダイナマイトを生み出し、人を大量に殺戮する道具へと成り下がる。
それ故に、この国では花火を禁じ、火薬を作り出す事すら犯罪行為と見なし許されていない。
「そんな事を言い出せば、包丁や刀も人を殺せるではありませぬか…。花火は誰も傷付けたり致しません。」
「包丁や刀程度の死者では済まなくなる。この国が科学と宗教を捨てたのは、その為だとわかるだろ?ましてや花火…、当然だが舶来品だったはず…。」
「それが何か?」
「お前が手に持つランプ…、それ一つで、どれだけの子供が飢えずに済むのかなど、万里に甘やかされただけのお前には絶対に理解が出来ないのだろうな。」
誰かが女子は愚かな方が可愛いと言った。
悪いが、俺にはそう思えない。