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戦場に響く鈴の音
第3章 羽織
「私の前に出せる礼儀とはなんだ?お前のように噛み付いて来る子だと言うならば私は既に慣れてるぞ。」
だから、昔話は止めてくれ。
「人の言葉を聞かないのです。」
鈴が俺以外の人間は存在しないように振る舞う事に手を妬いてると御館様に助言を求める。
「神路、お前もそうだったよ。」
「ですが俺には秀幸殿のような手本が居りました。」
「なら神路がその子の手本になれば良い。」
鈴に俺しか見えないならば俺の生き方を鈴に示せと御館様が言う。
「俺なんかが…。」
「良い事だと思う。お前は忠義が厚く育ったが愛が薄いと感じていた。」
「愛?ですか…。」
「男が女へ持つ愛、親が子へ持つ愛。お前にはそれを理解させるのが難しかった。未だにお前に理解をさせたとは思えない。」
「そんな事は…。」
「愛には忠義同様に生命を掛ける価値がある。場合によれば忠義を捨てでも愛に走らねばならぬ時もある。そんな深い愛は自分が育て守りたい者を持たぬ者にわかりはせぬ。」
確かに御館様の言う意味が今の俺にはわからん。
親が居ない俺が知る愛は御館様と義父から受けた恩であり、それは愛では無いと御館様が言う。
「恩を返す為の忠義に厚くとも、誠の愛が無ければお前は黒崎の家を潰すだけの漢となる。」
悲しげな御館様の言葉が辛い。
俺はまだ御館様から学ぶ事が多過ぎる。
「神路では小姓を持つには早過ぎたかもしれぬ。」
俺はまだ未熟者だと諭される。
伝令の早馬でいち早く御館様へ俺の状況を知らせた雪南を恨みたい。
それもこれも雪南に早馬を任せっぱなしにした自分の責任だからと諦める。
「あれを寺子屋に出せるようになった際は、ご支援をお願いします。」
今はその約束しか御館様に出来ない。