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戦場に響く鈴の音
第23章 笑顔
朝飯を済ませ、義父の部屋で挨拶だけを済ませれば鈴と多栄を連れて屋敷の下にある、桟橋の小屋へ向かう。
「本当にお2人だけで大丈夫ですか?」
寺嶋が不安げに俺を見る。
風真に離宮警護をやらせるから、寺嶋も多栄と共に柑の屋敷へ帰れと言ったが、夕べのボヤ騒ぎがあった為に心配症の寺嶋は天音に残ると言って譲らない。
「多栄が居る。」
「多栄だけでは鈴様をお守りするだけで精一杯でございます。」
「柑には水野も居る。たかが2、3日の滞在に兵をゾロゾロ連れて歩くのはお断りだ。」
「そうですが…。」
「案ずるな。この冬に由から入り込んだ野盗の類いは殆どないと報告は受けている。」
寺嶋の心配はそこにある。
由から入り込む野盗は兵崩れが多い。
今の自分達の境遇は俺のせいだと襲って来る可能性は0とは言い難いが由の村々に送り出した米のお陰でその心配も無さげだ。
それでも笹川に不信感を持つ家臣達は完全な冬が来るまで気持ちが休まる事はない。
「そろそろ、船が来ます。」
心配を諦めた寺嶋が言う。
船は普段から柑に接岸されている為に、天音へは決まった時間に迎えに来る形となる。
「多栄と鈴は?」
「桟橋の方かと…。」
寒いから小屋に居ろと言っておいたが若い女子はキャーキャーとはしゃぎ、桟橋に接岸する船を見てる。
「こら、多栄。休暇とはいえ、黒崎様を守るつもりで柑へ行くのだぞ。」
寺嶋が父親として多栄を叱る。
「承知しております。父上…。」
毛皮を首に巻く小さな武士が口を尖らせる。
その後ろに控える姫の姿を見て、俺は笑いが込み上げる。
今回は柑の街へ行くのだからと女子の服装とはいえ、動き易い軽装にしたはずの鈴だが、過保護な義父から寒い思いをしてはならぬと大量の防寒着を着せられてしまい今の季節に合わせた雪だるまの様な姿になっている。