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戦場に響く鈴の音
第23章 笑顔



真っ白な丸い毛皮の帽子…。

着物の上に羽織る白い毛皮のポンチョ…。

ミトンの手袋に膝下まである長靴も全てお揃いの毛皮で作らせた特注品だが、いつもの倍に膨れ上がった鈴が情けない表情で俺の方を見る。


「笑っただろ?」


疑いの視線を向ける鈴が言う。


「いや、笑ってない。」

「柑までの船はとても寒いのだ。だからおっ父が着せてくれた服を神路は笑った。」

「笑ってないって…。」

「柑に着いたら脱ぐ…。」

「いや、脱がなくて良い良い…。」

「神路が笑うだろっ!」


雪だるまになった鈴を抱き上げてから船への渡り橋を上がる。

小さな船だが10人の船員が乗る、それなりの規模を誇る船だ。

普段は柑と柊へ抜ける天理街道を繋ぐ為の船…。

天音湖を迂回すれば3日以上かかる道が船ならば半日で済む。

その湖上を通るついでに領主である黒崎の屋敷へ迎えに来させる。


「ご領主様、船上は冷えますから船室へどうぞ。」


と船の舵取りが声を掛けて来る。


「どうする?鈴…。」

「鈴は寒くない。神路だけが行けば良い。」

「俺は鈴と居るよ。」

「ならば船上が良い。湖から見る天音の屋敷は凄く綺麗だぞ。」


目を輝かせる鈴の好きにさせてやりたいと思う。

船には天理から乗った商人が数人居るが観光時期のように混んでは居ない。


「黒崎の若旦那様でありますか?」


多栄くらいの年頃の男子を連れた商人が聞いて来る。


「柑の商人か?」

「はい、今年も鮭の卵の塩漬けがよく売れて良い冬が越せます。」

「そうか…。」

「此度は若旦那様の婚姻のお祝いを一言申し上げたくて…。」


商人親子は鈴を妻だと誤解してる。


「ああ、ありがとう…。良い冬を…。」


鈴は黒崎の妻ではないと、いちいち民に訂正する必要はない。


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