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戦場に響く鈴の音
第23章 笑顔
所詮、彩里は籠の鳥…。
船の出航に伴い湖に居た白い渡り鳥が一斉に飛び立つ。
「では…、若旦那も良い旅を…。」
商人親子は船室の方へと姿を消す。
「神路…、鈴が妻じゃないと言わなくて良いのか?」
不安そうに鈴が聞く。
「必要ない。領主のお家騒動など聞かせれば民に不信感を与えるだけにしかならない。」
「だが…。」
「だから、柑では鈴が妻の顔をしていれば良い。」
「神路がそれで良いなら…。」
船の緣で湖を眺める俺に鈴が寄り添う。
鈴には自由で居て欲しいと願う。
屋敷の中では不自由な思いを嫌でもする。
「ほら、神路っ!」
いつの間にか鈴の周りに鳥が集まってる。
「何、やってんだよ…。」
何十羽と集まった鳥に埋もれそうになる鈴に呆れる。
鈴が持っていた菓子を空へ投げた為に餌を求める鳥が鈴を目掛けて集まってしまう。
「これは渡り鳥と言うのだろ?この前、雪南がやってたのを真似てみた。」
嬉しそうにはしゃぎ、船の甲板に多栄と2人で鳥の餌を巻く鈴を眺める。
久しぶりに少女らしく笑う鈴を見たような気がする。
「気を付けないと鳥の糞に塗れる事になるぞ。」
「大丈夫よ。もう菓子はないもの。」
キャッキャッと笑う鈴が眩しく見える。
屋敷で俺と居る時は泣きそうな表情をするか拗ねたり怒ってばかりの鈴になるのが辛い。
「雪南の野郎…。」
鈴を柑へ連れ出した時に笑わない鈴の為にと、わざわざ鳥の集め方を教えた雪南をムカつくとか思う。
義父も雪南も鈴に甘い。
うかうかとしてたら俺の方が鈴に捨てられるのではないかと不安になる。