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戦場に響く鈴の音
第23章 笑顔
鈴が瞳を輝かせて船の緣から乗り出す。
「ほら、神路っ!柑だ。柑に着いたっ!」
興奮する鈴の腰の辺りを掴んで引き寄せる。
「こら、危ないから…。」
「茂吉が居る。見えるか?神路…。」
柑の港で大きく手を振る男が見える。
それは一人や二人では済まず、40~50人ほど居る。
「大袈裟な事はするなと言ってあったのに…。」
船が接岸され、船板を降りる俺と鈴に茂吉が駆け寄って来る。
「旦那、お荷物は?鈴の嬢ちゃんも今日は随分と元気そうだ。」
そう言って笑う茂吉が鈴を抱き上げる。
鈴に対しては誰もがこんな風に甘やかす。
「茂吉はいつも元気だな。」
「そりゃ、そうっすよ。お屋敷じゃ俺の様な漢は迂闊に嬢ちゃんや旦那に話し掛ける事すら許されない。ここじゃ、好きなだけ嬢ちゃんと遊べる。」
「神路、茂吉と遊ぶのか?」
茂吉に抱っこされた鈴を引き取れば、鈴が問う。
俺としては鈴と2人だけで過ごす予定だったのに、茂吉が自分の部下を連れて俺と鈴を取り囲んでやがる。
「茂吉…。」
「んで、旦那…。今日は何処に行きやす?まさか花街には行かないですよね?」
「行くかっ!」
「では、どちらへ?」
「悪いが荷物を宿へ運んでくれ。それから、この集まった人間を帰らせろ。寺嶋の屋敷へ先ずは多栄を送る。」
「えーっ?皆が旦那にご挨拶をしたいと集まったんですぜ。」
「挨拶は要らん…。」
そうは言っても茂吉の部下は期待をした顔で俺を見てる。
「こっちが迫(さこ)村の田井(たい)兄弟、こっちは浜(はま)村の正太(しょうた)って奴です。」
良く似た顔立ちの2人がギクシャクしながら俺に頭を下げ、もう1人は頭すら下げずに口を開けたまま俺を凝視する。