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戦場に響く鈴の音
第24章 演奏
俺と茂吉の会話を聞いていた鈴が興奮して瞳を大きく開く。
「宿で聴けるのか?琴の音を神路と宿で聴けるのか?」
「ああ、但し、夜になってからだ。今からの手配だからな。それまでは柑の街見学を続けるぞ。」
「うんっ!」
満面の笑みを鈴が浮かべれば
「お前ら、柑で一番琴が上手い芸妓を手配して来い。演奏は黒崎の姫様のご希望だとちゃんと言うんだぞ。」
と言って茂吉が兄弟を走らせる。
鈴の笑顔に見惚れていた兄弟が茂吉の掛け声で慌てて走り出す。
「なあ、神路…。琴とは高い物なのか?」
不安そうに鈴が聞く。
「安くはないな。」
「そうか…。」
「欲しいのか?」
「鈴が貰った金子では買えない。」
「欲しいなら買ってやる。義父も鈴が欲しい物は何でも買ってやると言ってただろ。」
「でも…。」
「但し、柑では手に入らない。」
「そうなのか?」
残念そうに鈴が俯く。
柑は所詮、観光が中心の田舎街だ。
手に入れるなら燕か柊の店で買うしかない。
「茂吉、琴と…、鈴に教える人間の手配も可能か?」
花街にも顔が効く茂吉なら出来るはずだと確認する。
「柊からですよね?少し高くついても宜しいか?」
「構わん。」
「雪が気になるところですが明日にでも早馬を柊へ飛ばします。」
「悪いな。」
雪で閉ざされる天音の屋敷では出来る限り鈴がやりたい事をさせてやりたいと願う。
「神路、ありがとうっ!」
鈴が俺に抱きついて笑う。
その笑顔が見たいからと、ついつい甘やかしてしまう。
「他に欲しい物はあるか?」
「雪南には本を…、おっ父にはお茶碗を…、多栄には新しい木刀…、それから…。」
「鈴…、それは欲しい物でなくお土産と言わないか?」
「駄目なのか?」
やはり、うちの仔猫は天然らしい。