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戦場に響く鈴の音
第24章 演奏
前回、柑へ来た時に寄った本屋で高いからと雪南が買うのを止めた本があると鈴が言う。
「おっ父は燕のお屋敷でいつもお茶を飲む時に使うお茶碗があるのだ。それを燕に忘れて来たと言っていた。多栄は天音の屋敷にある道場で刀の稽古をしたいらしいが自分様の木刀が無いから道場が使えないと言ってたのだ。」
台所に居る斎我には包丁を研ぐ石…。
財布をあちこちに置き忘れる須賀には根付け…。
鈴に寺子屋の卒業祝いをくれた直愛には筆…。
何故か鈴は屋敷中の人間が欲しい物を知ってる。
「鈴が欲しい物を俺は聞いてんだけどな。」
自分の好いた女が欲しい物すらわからぬ男なのだと思うと情けない気分になる。
「鈴には神路が居る。琴も買って貰える。それだけで満足だよ。」
欲がない女…。
有難いような寂しいような複雑な気持ちにさせられる。
「茂吉、柑の名物ってなんだ?」
欲しい物がないなら、美味い飯くらいしか思いつかない。
「柑の名物なら、今夜の宿の飯で出ますよ。」
茂吉がのんびりと答える。
「そろそろ、昼だろ?何かないのか?」
「何かと言われても…。」
こういう状況になると何かと流行り物の情報が早い女子とは違い、男とは駄目な生き物だとつくづく思う。
「神路、柑は饅頭が有名だぞ。」
自慢げに鈴が言う。
「饅頭って…、あの甘いお菓子か?」
「違うぞ。柑では野菜や肉を薄皮に包んで焼いた物を饅頭と呼ぶのだ。」
「ああ、蒲江が出してるやつな。」
よくよく考えれば、黒崎の領地内の名物の殆どが蒲江が作り出した物となる。
「鈴はあれが好きだ。この前も多栄と歩きながら饅頭を食べた。」
「歩きながらとか、姫がはしたないぞ。」
「でも、歩きながら食べると美味しいぞ。」
鈴がそう望むから街の中心部にある商店街へと移動する。