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戦場に響く鈴の音
第24章 演奏
雪で閉ざされる前の最後の書入れ時だと、商店街になる道は様々な露店が祭りの様に張り巡らされている。
「見て、神路…。」
とある露店で鈴が足を止める。
簪を売る店だ。
「これは神国から来た流行り物だよ。」
露店商の男がニヤリと笑いながら鈴に薦める。
「鈴は…、髪の結い方を知らぬ…。」
露店商に怯える鈴が慌てて俺の後ろへと隠れる。
まだ人見知りはあるのだと感じるだけで少しはホッと安堵する。
最近の鈴は屋敷中の人間と親しくする故に警戒心が足りないのではないかと危惧をしてたが、その心配は無さそうだ。
「髪の結い方を知らなくとも、この簪なら誰にでも髪に留める事が出来るよ。」
品物を売り切りたい露店商の男は小さな箱に入る変わった形の簪を自分の髪に留めて見せる。
「新しい物か?」
「そうさ。なんせ神国から取り寄せたものだ。あちらじゃ、若い女子が争って買ってる。」
「鈴も一つ買うか?」
なんとなく見覚えがある簪を手にして鈴に聞いてみる。
結った髪に刺す物とは違い、髪を挟むようにして留める簪には小さな鈴蘭の花が飾りとして付いている。
「それは?」
「鈴蘭の花…、鈴の名が付いた花だ。」
胡蝶が好きな花だった。
艶やかに咲き誇る胡蝶蘭の様な女子だと名付けられたくせに
『こっちの方が私にはお似合いだと思う。』
と言い小さな鈴蘭を好む女子が胡蝶だ。
ただ懐かしさに、その簪を眺める。
「鈴の名が付いた花なのか?」
「そうだ。」
「なら、買う。」
鈴の言葉に露店商が満面の笑みを浮かべる。
鏡を覗き込み、耳の横にある髪に簪を挟めば鈴の髪から鈴蘭が生えたようにも見える。