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戦場に響く鈴の音
第24章 演奏



焼きたての饅頭が入った袋を抱える鈴が駆け寄って来る。


「神路…、買えたぞ。これが栗饅頭らしい。」

「一つ寄越せ。」

「神路は後だ。ちゃんと並んだ田井兄弟が先だ。」


鈴にそう言われて、強面の兄弟の顔が緩むのが見える。


「良い嬢ちゃんだ。俺らみたいな下賎の人間でも対等に扱ってくれる。」


茂吉が鈴を褒める。

鈴も俺も田井兄弟と変わらない人間だと考える鈴だからこそ出来る事なのだろう。


「あれは姫であって姫ではないからな。」


俺がそう言えば鈴が


「どういう意味だ?」


と聞いて来る。


「じゃじゃ馬だと言ったのだ。」

「鈴は馬じゃない。意地悪を言うならば神路の分の饅頭は鈴が食うぞ。」

「そうやって子豚になるのか?」

「もう知らぬっ!」


結局は鈴を怒らせるだけだと笑うしかない。

そんな一日を鈴と過ごし、茂吉が用意した宿へ向かう。

柑では最高級と言われる旅館…。

その門を潜れば、揃いの着物を着た女中がズラリと並ぶ。


「若旦那様、お待ちしておりました。」


先頭で頭を深々と下げるのは女将だ。

義父と一度だけは来た覚えがある。


「久しいな。」

「若旦那様が天音の訓練所を卒業された時以来かと…。」


あの頃は坊様とガキ呼ばわりされていた記憶がある。

彩里と婚姻した今は、街中が俺を若旦那と呼ぶ。

次に来る時はご領主様か…。

義父が後何年やれるのだろうと考えるだけで焦りが出る。


「こちらへ…。」


と女将が離れの方へと俺達を案内する。

領主や城主、大城主などを饗す専用の部屋は離れとなる別館にしか存在しない。


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