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戦場に響く鈴の音
第24章 演奏
「それじゃ、俺達は一風呂浴びて来やす。」
俺と鈴を離れの前まで見送った茂吉達は本館の方へと戻る。
「茂吉達は泊まらないのか?」
寂しくなると鈴が言う。
「別館には泊まらないというだけだ。風呂を済ませて、食事時には、また会える。」
「食事は本館になるのか?」
「そうだ。」
別館でも鈴と2人だけの食事が可能だが、今夜は鈴の為に芸妓を呼んだ為に本館にある座敷を使う事になる。
部屋に入ると、突然、鈴が落ち着きを失くす。
普段ならば鈴がやるべき仕事を旅館の女将がテキパキと手早く熟すのが鈴には耐えられない状況らしい。
女将は暖炉に薪をくべ、俺達が脱いだ服を戸棚へと片付ける。
「神路…、お茶でも入れようか?」
する事がない鈴がそう言えば
「お茶ですか?直ぐにお入れしますね。」
と女将が部屋の真ん中にある机でお茶の用意をする。
「神路…。」
今にも泣きそうな表情をする鈴が俺の背中で顔を埋める。
「女将、悪いが…、茶を入れたらここは人払いしてくれ。」
屋敷では、鈴の為に常に人払いをしている。
女中が俺の世話で部屋の中をウロウロとするだけで鈴が落ち着きを失くし狼狽えてしまうからだ。
「はい、畏まりました。では、ごゆっくり…。」
深々と頭を下げて部屋から女将が出て行けば、やっと自由だとばかりに鈴が大きく息を吐く。
「大袈裟だな…。」
笑う俺を鈴が睨む。
「人が居ると落ち着かないだけだ。」
「そろそろ慣れろよ。鈴は黒崎の姫様なのだから…。」
「別に…、姫になどなりたいとは思ってないもの。」
欲のない姫様が俺の膝に跨る。