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戦場に響く鈴の音
第3章 羽織
「何事だ?」
俺の問いに雪南が
「確かめて参ります。」
と自分で足を手拭いでひと拭きして屋敷内へと上がる。
奥州という客人が居る前で晒す黒崎の醜態に直愛が狼狽える。
「自分は奥州の屋敷に戻った方が良さげですか?」
直愛が困った顔を俺に見せる。
今夜の宴が面白くなかったのは俺だけでなく直愛の父、直久も同じだったはずだ。
梁間の謀反をいち早く知らせた立場である直愛に御館様からの誉め言葉は宇喜多に取られた形で終わってる。
だからこそ、日を改めて御館様は奥州に褒美を出すと俺に約束をして下さった。
今、その微妙な立場の直愛からすれば、落胆した父が居る奥州の屋敷には帰り辛い。
「帰ったか…。」
狼狽える直愛と呆れる俺に向かって黒崎の屋敷の主である義父がのんびりと声を掛ける。
その義父の姿に目を見張る。
顔中に引っ掻き傷を負い、髪が乱れてボロボロだ。
「何事です!?」
流石に足洗いの女中を待ってられずに雪南の様に自分で玄関にある桶の手拭いで足を拭き、框(かまち)へと上がる。
「いや、神路の小姓がね…。」
義父がゆっくりと呟いた瞬間、俺が居る框に向かう廊下から小さな足音がとんでもない速度で聴こえて来る。
「神路っ!」
そう叫ぶ鈴が無理矢理に俺に向かって飛び付く。
ガリガリと嫌な音が俺の首元から耳に伝わる。
鈴が俺にしがみつき俺の首に爪を立てたからだ。
「痛っ…。」
この仔猫が騒ぎの原因だと一瞬で悟る。
「神路…。」
半泣きの鈴が必死に俺の身体によじ登る。
「何が起きた?」
鈴に聞いても鈴は俺にしがみつく事に必死だ。