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戦場に響く鈴の音
第24章 演奏
ピンと張り詰めた音が広間へと広がる。
素人でもわかる上手さで女が一人の音を鳴らす。
曲が進むにつれ、後ろに控えていた女二人が琴の音を重ねて弾く。
「連奏か…。」
珍しいものを聴かせて貰ってると思う。
「凄い…。」
琴の音に圧倒されていた鈴が呟く。
あれだけ馬鹿騒ぎをしていた茂吉やその部下の兵士達までもが口を閉じて琴の音を聴く。
琴は演奏者の技術がそのまま出ると聞いた事がある。
ましてや連奏は一人一人が音を変えて演奏する為に、僅かでもズレれば全ての音が崩れて台無しになる。
それを全く感じさせない女達が涼しい顔で音を重ねて美しい音色を奏でていく。
それは春を思わせる音色…。
ある者には故郷を思い起こす音となるのだろう。
鈴ですら、俺の存在を忘れて聴き入っている。
春も望まず、故郷も知らぬ俺だけが、この演奏の中で孤独を感じてしまう。
ツッと最後の一音が波紋のように広がり消える。
誰もが黙ったまま、静寂だけが広間に続く。
「見事な演奏であった。」
俺がそう口にすれば、広間に広がった緊張が解ける。
「ありがとうございます。」
「少し、うちの姫に触らせてやって貰えるか?」
「ええ、喜んで…。」
演奏の代表を務めていた女が琴の前を空けて鈴に譲る。
「神路…。」
「少し、教えて貰って来い。」
小さく頷く鈴が琴の前に座る。
「弦の押さえが緩いと音がボヤけますから…。」
弾き方を簡単に教わる鈴が琴へと手を添える。
ピーンッと甲高い音がする。
それは、とてもじゃないが演奏とは言えない音だった。
何も知らぬ鈴が音を出すというだけの拙い演奏なのに…。
ポツリポツリと軒から落ちる雨垂れの音が奏でる自然を思い起こす演奏を鈴がする。