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戦場に響く鈴の音
第25章 家族
こればかりは見よう見まねで身に付くものではないと寺嶋の兵に茂吉の兵を預けるしかなくなる。
道場へ入るなりワクワクと子供のように期待する顔を並べた茂吉の兵が一斉に俺を見る。
遅れて入って来た寺嶋の兵は俺の前で並び、一斉に跪く。
「寺嶋三番隊、離宮警護班の班長を務める春日(かすが)と申します。」
「同じく離宮警護班班長の倫乃(しなの)と申します。」
10人の中から二人が前へと歩み寄る。
この段階で茂吉との兵との差は歴然だ。
「水野の特別遊軍は誰が代表を務める?」
俺が質問をしても茂吉の兵士達はお互いの顔を見合わせて迷ってばかりいる。
「田井兄弟…、仮で良いからお前らがやれ。腕前次第で隊長を決めてやる。」
ため息しか出ない。
「はあ…、しかし、若殿様…、俺らの隊長は水野さんだよ。」
と呑気に田井の弟が言う。
「先ず、俺を若殿様と呼ぶな。それから、水野が留守をした時など代わりを務めて隊を纏める者が必要になるだろ。」
「水野さんが居ない時は山家(さんげ)村の小助爺さんが代わりをやってくれるよ。」
「その小助爺さんとやらは、ここに居ないだろ!」
「へえ、確かに…。」
多栄ですら笑いを堪えている。
「お前らには隊での戦い方を覚えて貰う。」
それだけを言い5人一組の隊へと分ける。
「5人の隊長はそれぞれ田井兄弟だ。兄弟が討たれたら負けたと思え…。隊長を守る事だけ考えろ。」
基本だけ教えて訓練を開始する。
「始めっ!」
多栄が号令役を引き受ける。
寺嶋の隊が田井兄弟の班を瞬殺する結果は見えている。
「田井、隊長が真っ先に前に出て刀を振り上げるな。」
「歓迎会ではないのだから全員が横並びで相手を迎えるな。」
そうやって茂吉の兵士達に隊で纏まる意味を教え込む。