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戦場に響く鈴の音
第25章 家族
「個々のバランスが悪過ぎます。」
そう呟くのは春日だ。
「田井、得意な武器は?」
全員に刀を想定して木刀を握らせたが、木刀の握り方からしておかしな奴が居る。
「俺と弟は素手か鉈…。農家の出の者は鍬しか握った事がないもんで…。」
田井が悪い頭を掻く。
よく、こんな連中ばかり集めたもんだと茂吉に呆れてしまう。
「なら、鍬の代わりに槍を…。握り方はそう変わらん。田井兄弟は刀のままで…、但し、大振りで振り回すな。」
握る得物が変われば、少しはマシな持ち堪えを田井の班が見せる。
体力には自信がある連中ばかりだから、今度は体力のない寺嶋の班の方が雑な攻撃に変わってく。
「倫乃…、脇ががら空きだ。一人、バテて動きが遅れてる。」
「春日、自分だけを見るな。周りの兵の動きを見て動け…。」
10本目の模擬に入る頃には寺嶋の兵の動きが3倍以上も鈍くなる。
「ここまでだ。寺嶋の兵は外を走って基礎体力を付けて来い。水野の兵は残って多栄に剣術指南を受けろ。」
初日はこんなもんだろうと締めくくれば
「私が剣術を?」
と多栄が目を丸くし
「このお嬢ちゃんが先生ですか?」
と田井兄弟も目を丸くする。
「多栄、お前はあの羽多野に直接教わった特別な剣士だろ?田井、言っておくが、このお嬢ちゃんの多栄は兵訓練所を首席で出てる一流の武士だ。」
それを言い含めて道場を出る。
こんな訓練がしばらく続くと思うだけで疲れが出る。
道場から主屋へ移動すれば鈴が鳴らす琴の音が聴こえる。
「まだ…、やってたのか?」
直に日が暮れる。
今日は柑から戻ったばかりで疲れてるはずの鈴が夢中になって琴を弾いている。